2012-05

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「帝国からの逆襲」[26/26]もう一つの結末: エピローグ

 叶野は困った顔をして、誰に向かって言うでもなく呟いた。
「映像がないから何とも言えないけれど。次元転移装置が発動した時に三人が同じ位置に立っていれば問題無いんだけど・・・。少しでも位置がずれていると、異なる年代に転送されてしまう可能性が高いんだよなあ。」
 雅江のミッションが成功したのかどうか、辰哉と史子は、どの年代に転送されたのかは、どうしたら確認できるのだろうか。雅江と辰哉が過去に戻ることによって、また、新たな世界線が派生して生じてしまうだけなのではないだろうか。叶野は自問自答していた。



(完了)


(この物語はフィクションであり、登場する人物、地名はすべて架空のものです。)

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「帝国からの逆襲」[25/26]もう一つの結末 第五章 再稼働(4)

 東景大学物理学科において、澤田雅江、白崎辰哉、そして垣本史子が次元転移装置により転送されたその直後、テレビ東景が緊急放送を開始した。画面の中で、アナウンサーが慌ただしい様子でニュースを伝え始めた。
「首相官邸で新たな動きがあったようです。繰り返します。首相官邸で新たな動きがあったようです。画面を首相官邸のカメラに切り替えます。」
 首相官邸内のカメラには、石原慎次郎よりずっと若い一人の陸軍軍人が映し出されていた。その脇の足元には、同じ迷彩服を着た軍人が倒れているのが見える。その若い軍人がカメラに向かって話し始めた。
「私は、帝国陸軍少尉垣本です。首相官邸閣議室を占拠していた石原慎次郎中将始め、数人の陸軍幹部を射殺し、首相官邸内の指揮権を奪還しました。首相官邸に軟禁されていた日本国首相始め、官僚の方々を解放します。」
 垣本と名乗る軍人の後ろでは、官僚たちがソファーから立ち上がり、笑顔でお互いに握手している様子が窺える。垣本は続ける。
「帝国陸軍諸君に勅命を伝える。」
そう言って、垣本はA四サイズの紙を取り出し、そこに書かれている文章を読み上げたのであった。

勅命が發せられたのである。
既に天王陛下の御命令が發せられたのである。
お前達は上官の命令を正しいものと信じて絶對服從を
して、誠心誠意活動して來たのであろうが、
既に勅命、天王陛下の御命令によって
お前達は皆原隊に復歸せよと仰せられたのである。
此上お前達が飽くまでも抵抗したならば、それは
敕命に反抗することとなり逆賊とならなければならない。
正しいことをしてゐると信じてゐたのに、それが間違って
居ったと知ったならば、徒らに今迄の行がゝりや、義理
上からいつまでも反抗的態度をとって
天王陛下にそむき奉り、逆賊としての汚名を
永久に受ける樣なことがあってはならない。
今からでも決して遲くはないから
直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復歸する樣にせよ。
そうしたら今迄の罪も許されるのである。
お前達の父兄は勿論のこと、国民全体もそれを
心から祈ってゐるのである。
速かに現在の位置を棄てゝ歸って來い。


(この物語はフィクションであり、登場する人物、地名はすべて架空のものです。)

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「帝国からの逆襲」[24/26]もう一つの結末: 第五章 再稼働(3)

 雅江は、大正時代の女学生かと見まごうばかりの装いに着替えて、実験室に現れた。その姿を見て、からかうように史子が言う。
「ちょっと若作り過ぎてない。女学生というには、薹が立ちすぎているし。」
雅江は軽く笑いながら答える。
「そうですかぁ。ま、いいじゃないですか。」
 その様子を見つめながらも、辰哉は何かを思い詰めるように、口を真一文字に結んだまま黙っていた。
 次元転移装置はポリカーボネートの筐体の中に納められており、実験室の中央に置かれている。実験室とガラス窓で隔てられた制御室では、技官の山田が装置のコントロールをするため、液晶モニターに向かい、パソコンを操作している。
「山田さん。キャパシターの充電量は充分確保できてますかね。」 
制御室でパソコンに向かっている山田に、叶野がインターコムを通して話しかけた。
「充分です。電圧も確保できてます。」
それを聞いて、叶野は山田に言う。
「じゃあ、本番といきますか。」
そして立ち上がり、叶野はみんなに向かって言う。
「えっと、本番前に少しご注意を申し上げます。前の時の実験の状況とその結果、そして山田さんの経験から分かったことですが、この実験室にいると次元転移装置の影響を受けるようです。装置による転移エネルギー場は金属により遮断できるようです。ので、雅江さん以外はこの部屋から外に出て下さい。また、次元転移装置から発せられる光を浴びても多少の影響が有るようです。ので、制御室のガラスの前にはシールド用の衝立を立てます。」
 雅江を残して、みんな実験室を出て制御室に入る。制御室と実験室を区切るガラス窓の向こう側には、次元転移装置が発する光を遮るために衝立が立てられていて、雅江を直接見ることはできない。制御室のパソコンデスクの大きなモニターのウィンドウの一つに、実験室内を写すカメラ映像が表示されている。その映像には、ヌー君という名の犬のぬいぐるみを手に抱えて椅子に座り、不安そうにしている雅江が見える。モニター上の別のウィンドウでは、音楽用イコライザのようにいくつかの棒グラフが上下に伸びたり縮んだりしている。
 辰哉は独り言のようにつぶやいている。
「雅江を・・・・。辰哉、お前は・・・。」
「念のため、カメラ映像を切っておきます。」
叶野がそう言うと、雅江が写っていたウィンドウが閉じられた。
「雅江一人で、過去に・・・。」
「十からカウントダウンします。山田さん、操作をお願いします。」
「辰哉、雅江と二度も別れ・・・。」
「十、九、・・・」
辰哉は夢遊病者のように立ち上がる。
「せっかく生きて雅江が戻ってきたのに、また失っていいのか。」
叶野のカウントダウンは続く。
「五、四、・・・」
辰哉は、実験室に通じるドアを開け、実験室に走り込む。
「雅江、お前を一人で行かせない。二度も悲しい思いをしたくない。」
気付いた史子が辰哉を追いかける。史子が入ると同時に、実験室のドアが勢いよく閉じられる。
「・・・、ゼロ。」
次元転移装置から放たれた光で、実験室が満たされた。


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「帝国からの逆襲」[26/26] エピローグ :一つ目の結末

 占拠事件対策本部は、川野が提案したアイディアを実行した。
 ヘリが首相官邸及び国会議事堂上空を旋回し、何百枚、何千枚ものビラを巻き落とした。

兵に告ぐ

一、今からでも遲くないから原隊へ歸れ
二、抵抗する者は全部逆賊であるから射殺する
三、お前達の父母兄弟は國賊となるので皆泣いておるぞ

 また、公共放送では、武装兵士達へ投降を呼びかけるメッセージが放送された。

兵に告ぐ

勅命が發せられたのである。
既に天王陛下の御命令が發せられたのである。
お前達は上官の命令を正しいものと信じて絶對服從を
して、誠心誠意活動して來たのであろうが、
既に勅命、天王陛下の御命令によって
お前達は皆原隊に復歸せよと仰せられたのである。
此上お前達が飽くまでも抵抗したならば、それは
敕命に反抗することとなり逆賊とならなければならない。
正しいことをしてゐると信じてゐたのに、それが間違って
居ったと知ったならば、徒らに今迄の行がゝりや、義理
上からいつまでも反抗的態度をとって
天王陛下にそむき奉り、逆賊としての汚名を
永久に受ける樣なことがあってはならない。
今からでも決して遲くはないから
直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復歸する樣にせよ。
そうしたら今迄の罪も許されるのである。
お前達の父兄は勿論のこと、国民全体もそれを
心から祈ってゐるのである。
速かに現在の位置を棄てゝ歸って來い。
          

(完了)



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「帝国からの逆襲」[25/26] 第五章 再起動(4):一つ目の結末

 叶野は困った顔をして、誰に向かって言うでもなく呟いた。
「映像がないから何とも言えないけれど。次元転移装置が発動した時に二人が同じ位置に立っていれば問題無いんだけど・・・。少しでも位置がずれていると、異なる年代に転送されてしまう可能性が高いんだよなあ。」
 史子は、半泣きになっていた。
「白崎辰哉ぁ・・・・。私はどうすればいいのよ。残された私は、この思いをどこに持っていけばいいのよ。白崎辰哉のバカヤロー!」
史子は両手で顔を覆い、その場にへたり込み、泣き続けていた。

 雅江と辰哉のミッションが成功したのかどうかは、どうしたら確認できるのだろうか。雅江と辰哉が過去に戻ることによって、また、新たな世界線が派生して生じてしまうだけなのではないだろうか。叶野は自問自答してみたが、答えは永遠に見つからないかも知れないと思っていた。


(この物語はフィクションであり、登場する人物、地名はすべて架空のものです。)

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